「よ～い」、パンという火薬の破裂音と共に、俺は全力でダッシュする。
あっという間に50ｍ先にゴールを駆け抜けた！
「6.29！、お前陸上部だっけ？」
「いえ、帰宅部です」
中学時代は太り気味では有ったが元々運動は出来る方なので、ハードル走では運動部と互角の走りをしてきた。
それが、最近になって体重はそのままで慎重が伸びたので、今日のタイム測定会には結構自信があったのだ。

すぐに次の組がゴールに向かってくる。
「6.15、お前も陸上部か？」
「いえ、パソコン部です」と答えると、先生は納得した顔をした。

6.15を出した青山は俺に「いいフォームだね」と言った後、おれをパソコン部に勧誘した。
「6.29なら問題無いよ」
ん！、パソコン部ってパソコンやるんだろ？
なぜ50m走のタイムが関係あるんだ？
でも、俺はその時パソコンに興味があったので、パソコン部に入部する事に決めた。

俺が高校に入ってすぐNECから5インチ高密度のフロッピーディスクを内蔵した、PC-9801m2が発売された。
ゲームするだけならPC8801Mk2で十分すぎるのだが、プログラミングにも興味があったのでできれば16ビットのパソコンが欲しい。
でも、実際にパソコンを使った事が無くて、迷っていたのだ。

自分が走り終わったので芝生の上に座っていると、なおみちゃんが隣に座り「パソコン部入るんだよね？よろしく！」と声を掛けて来た。
なおみちゃんもパソコン部だったのか。
なおみちゃんの名前は山岡優美と言うのだが、タレントの川島なおみさんに似ていたので、入学早々”なおみちゃん”というニックネームがついのだ。

話をするとパソコン部は体力自慢ばかりが在籍しているらしい。
今年の新入部員5人の内2人は体力不足だったのだが、パソコン好きなので入部したのだが1人は2日、もう1人は2週間でやめたらしい。

どうしてやめたのだろう？
気になって聞いてみると「放課後、部室に来れば分るよ」と笑顔で言うと去っていった。

最期にタイム測定の結果が発表され、最速は青山の6.15秒だった。
陸上部は2位の倉田が上位に入っただけで、1,3,4位はなんとパソコン部だ。
まだパソコン部への入部届を書いていない俺が5位なので、実質トップ5の4人がパソコン部と言う事になる。

先生が「お前たち、部室でパソコンやらないでトレーニングでもしてるのか？」と訊いた。
青山がキーボードのバネを強化して打ってるとか、パソコンをダンベル代わりにしていると言うので先生だけでなくオレも大爆笑した。

青山が言った「6.29なら問題無いよ」の言葉が何を意味するのか、とても気になってきた。
それと、なおみちゃんが言った新入部員２人がすぐやめてしまった事も・・・

ホームルームが終わったのだが、パソコン部への不安が払しょくできない。
部室へ行くのを躊躇っていると、「部室行こうよ」となおみちゃんに声をかけられた。
ここで迷っていても仕方ないし「嫌ならやめればいいか」と思い部室に向かう。

途中、部室にパソコンってあるの？と聞くと富士通のFM7があるし、毎週木曜日は大学のコンピュータ室にある大型コンピュータも使えるらしい。
でも、大型コンピュータってどうやって使うんだ？
それを聞こうと思ったら、もう部室についていた。
「連れて来たヨ～」
そうかやっぱり護送役なのね。
「いらっしゃ～い、まずは入部届を書いてね」と言いながら、神崎先輩が入部届を差し出した。

入部届には名前や連絡先、持っているパソコンの機種の他に「過去の運動歴」まであった。
なぜ、こんな欄があるんだ？

次に続きます。

※この記事は小説であり、事実と異なる部分がありますのでご理解ください。